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連載小説 『部屋』 【中編】

 魔王は静寂という言葉の本当の意味をはじめて理解したと思った。この世界こそは静寂であった。静寂とはこういうものかと思った。空は眼下にあった。頭上には摂氏マイナス一○○度の中間圏が、中間圏を抜けたその先は摂氏二千度の熱圏が、さらにその先にはマイナス二七○度の宇宙が広がっていた。高度五万メートル、ここは空の果てであった。視界には金色に輝く火球の群があらわれては消えた。魔王の遥か上空、低軌道上を周回するデブリが惑星の引力に堪えかねて落下していく。火球は成層圏へ達するまえに全て燃え尽きた。魔王と火球までの距離はすべて何千メートルとあったが、火球は炎の一筋一筋までが鮮明に見えた。腕を伸ばせば掴めるのではないかと思えた。魔王はこれから己が為すべきことを十分理解していた。いや、十分とはいえないかもしれない、しかし、為すべきことはひとつしかなかった。


 青年は窓を見ていた。正確に言えば窓の外の雪を見ていた。もっと正確に言えば窓の外に降る雪の粉が、―いや、もうよそう。私は青年ではないし、これ以上は私の憶測に過ぎないのだ。何れにしろ青年は降り続く雪を見ていた。世界のすべてには雪が降っていた。それは、積もることもなくゆっくりと降り続く雪だった。文字とは陰翳、すなわち闇で書かれた言葉だ。ひとは墨で文字を書き、インクで文字を書き、鉛筆で文字を書き、パソコンで文字を書かいた。すべての文字は光の欠損としての陰翳、すなわち闇として表出される。言葉はそれが文字として書かれた瞬間から、内在する意味とは無関係に闇を獲得する。青年はいま、彼が書いた沢山の言葉のことを思い返した。沢山の言葉とともに、沢山の闇を産んだことを思い返した。青年は光で文字を書きたいと思った。だが同時に文字の作り出す闇こそが、自分を支えていたものの一部であることを青年は理解していた。


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