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  • 2011.12.11 Sunday
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八月の祝祭 (一)

  陸軍士官学校を第五一期で卒業したわたしは、少尉として東北地方のとある連隊に配属された。そこで一八ヶ月余りを過ごした後、一九四○年二月、舞鶴要塞司令部での勤務を命じられ、わたしは任地へと赴いた。
 内地における要塞勤務は、正直なところ閑職であり、わたしはその時点で、中尉に昇進したのだが内心あまり面白くはなかった。

 ここでの最も重要な任務は、要塞地帯区域指定地内にある景勝天橋立の写真撮影の許可書を発行することだった。
 わたしは出勤すると、前日に提出されていた申請書類を要塞司令の机に届けた。決裁を承けた書類を持ちかえり、受付窓口で待機した。申請は例外なく承認された。
 昼近くになると、ぽつりぽつりと申請者が取りに出向いた。職業写真家や隣県の愛好家などが、おもに訪れた。

 それでも、当時の司令官が、これがつくづく変わり者であったので、わたしは暇をもてあますことはなかった。
 ところが、翌年の三月、ムライと名のる男性がわたしを訪ねて来ると、わたしは、にわかに忙しくならざるを得なかった。


 よく晴れた日の朝。わたしは、大連へ向かう列車に乗るため新京駅の待合室にいた。駅にほど近いヤマトホテルのロビーで、ムライと待ち合わせをした。
 ムライは、地味ではあるが、上品な生地で仕立てられた背広を、これはあくまでもわたしに言わせればだが、上手く着こなせていないようにみえた。ムライは、おそらく中に書類のようなものが入っていると思われる、黒い金属製の鞄を大事そうに抱え込んでいた。


  超特急あじあ号は、新京―大連間、七○○キロをわずか八時間半で結ぶ。その超特急が到着するまでの暫くのあいだを、わたしとムライは、待合室で過ごした。
 わたしには意外に思えたのだが、ムライはよく喋った。満洲の気候風土から始まり、産業の発展過程、市街地を除く道路の整備状況の悪劣さ、大連市と較べたときの、新京特別市の都市基盤整備の立ち遅れ。

 途中ムライは、中尉さんにお渡ししておきましょう、と言って小さな紙の箱を差し出した。名刺だった。わたしの姓名と、配属部署らしい名前が、上質な紙に黒い文字で印刷されていた。
 名前に間違えがないか確認するようにと言われ、わたしはわたしの名前を確認した。そして、残念だが一字間違えがあることを、ムライに告げた。
 ムライは、暫く何かを考えていた風であったが、ほどなく伏せていた視線をわたしに向けなおすと、あまり気にするほどのことではない、という趣旨のことを 言った。一時的な出向なので、新しい名刺を印刷するには及ばない。中尉さんには不愉快な思いがあるかもしれないが、満鉄に在籍中は、それで通してくれない か、と言う。
 わたしは、ムライに承諾の旨を伝えた。

 南満洲鉄道株式会社総務部広報課博物館準備室主任。この無用に長い、わたしの新しい肩書きについて、わたしはムライに質問をした。
 「いえね。実を言いますと、わたしども遺跡を、まあ、これはまったくの偶然なのですが、堀あててしまいまして」
「…イセキ。ああ、遺跡ですか」
 ムライの説明によると、関東軍からの委託による、満鉄と昭和石油による合同試掘調査隊が、満洲里から南に一五○キロ下った砂漠地帯を試掘調査中、偶然にも遺跡にぶちあたったらしい。
 当初は、軍にも満鉄にも報告もせずに無視していたらしいのだが、しばらくすると、大規模な遺跡群にあたってしまい、とうてい無視できなくなってしまったのだそうだ。
 そのとき発掘した遺跡を展示するための博物館を、満鉄で新たに立ちあげるのだという。
 そこまで話すと、ムライは背広の袖口を少しめくるようにして腕時計をみた。
 そろそろ列車の発車時刻だと告げ、ムライは立ち上がり、わたしもムライのあとを追った。


 わたしとムライが大連に到着したとき、すでに駅まえの円形広場には瓦斯燈が灯っていた。駅から目的地である満鉄大連機関区までは徒歩で向かった。
 目的地に到着すると、ムライは、手続きをしてきますから、と告げ守衛詰所のような建物に入っていった。
 月が濡れたように輝く夜だった。

 しばらく建物の外で待っていると、ムライがひとりの守衛と連れだって出てきた。
 守衛を先頭に、ムライ、わたしの順番で敷地の奥へ向かった。奥へ進むにつれ、少なかった街灯の数は更に減っていったが、月が明るく、さほど不自由はなかった。
 わたしたちが、大きな建築物の、守衛の話しによるとそれは機関車の製造所だが、その角を建物に沿って曲がると、一○○メートルほど先に変電施設のようなものがみえた。変電施設を囲う鉄柵の一部に、門のようなところがあり、ふたつの人影があった。
 門まで辿り着く途中で、人影は小銃で武装した兵卒であることがわかった。

 守衛は、ふたりの兵卒に向けて軽く敬礼を送り、ふたりも軽い敬礼を返した。わたしも立場上、ふたりの兵卒に敬礼を送ったのだが、わたしに返ってきた敬礼は、軍人らしく隙のないものだった。

 そのうちのひとりが、わたしとムライを変電施設の奥へと案内した。三メートル四方あるコンクリートの構造物へと向かった。構造物の鋼製の扉の前で案内の兵は立ち止まり、扉を二度叩いた。扉にある覗き窓の蓋があくと、ふたつの目が水平に動くのがわかった。
 覗き窓の蓋がしまると、鍵あける音がして、すぐに扉は外側に開いた。
 中へ入ると、正面に地下へ降りるための階段があった。ムライが先に階段を降り、わたしがあとに続いた。
 わたしはムライに、ここは何の施設ですかとたずねると、この下にエレベーターがあって、それで更に地下へ三○メートル降りるのだ、とだけ返事があった。
 エレベーターの降下速度は意外なほど速く、一分もしないうちに目的の階層に到着した。
 エレベーターの扉が開くと、そこは体育館のような感じの広々とした空間だった。天井からは数えきれないほどの水銀灯から光が垂れていて、部屋全体が白っぽくみえた。 
 ムライは、その光のなかを指さした。
「戦車だ。新型ですね、はじめてみました。満鉄で?」
 わたしはムライの反応を確認するために、すこしはしゃいだような口調でいってみたのだが、ムライは無言で、ただ立っているだけだった。

「このわたくしが、説明してさしあげるわ」
 わたしが、その声に振り返ったとき、既に女性は足早にこちらへ向かって歩きはじめていた。
 女性は、わたしとその戦車とのあいだに割り込むかたちで立ち止まり、振り向くと、言った。

「これが、第二種疑似永久機関搭載型本土決戦用特車『イザナギ』よ!」


 声がデカかった。


              …つづく



(このウェブサイトに掲載されている情報は、著作権法に基づき保護されています

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  • 2011.12.11 Sunday
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コメント
くしださん、お久しぶりです(^_^)

正直な感想…

‐説掲載は意外でした。

俺が無知なのですが、読み始めは「時事物?」と思ったのですが、「イザナギ」登場で、おやっ?って言う楽しみ

…が、今回の感想でした(笑)

ちょっと驚きと、今後の展開がたのしみです!

また何かの機会で絡める時は、宜しくお願いします(^_^)v

追伸、俺も「ノラ」です(笑)
  • 夜考宙ん
  • 2010/03/09 8:20 AM
やこちん、お久しぶりィ!
コメントありがとうデス。正直、出だしからやばいくらい地味になったので、次回から読んで貰えなかったらいかん、と最後ちょっと落としてみました(笑)

  • くしだ
  • 2010/03/09 6:41 PM
もしかすると大塚英志お好きですか?
言葉を借りると大塚英志原作のまんがをのぞきこんだような、『情景が見えました。』
  • 千艸
  • 2010/03/10 8:23 PM
>ちぐささま

コメントありがとうございます!
言われれば、それっぽくもありますねえ。設定とかプチ・レトロ系で。大塚英志とは、意外なところをつかれたわ。アッチョンプリケ(≧ε≦)

次回も読んで下さいな。
  • くしだ
  • 2010/03/11 8:47 AM
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